“カシャッサ”。聞きなれない名前かもしれませんが、これはブラジルが世界に誇る蒸留酒の名前です。
実はブラジルで製造されるこのお酒は、ブラジル国内のみならず、世界中の人々を魅了する、歴史と伝統のあるスピリッツなのです。
カイピリーニャというブラジルを代表するカクテルにも使われ、その消費量は蒸留酒の中で世界第3位という、ファンがとても多いお酒なのです。
しかし、このサトウキビから作られるブラジルを代表する蒸留酒であるカシャッサは、世界でこれだけの消費量がありながら、日本での知名度はまだまだ高くありません。
しかし近年、このカシャッサが日本国内でもひそかにブームになっていることをご存知でしょうか。
そんな知られざるブラジルの至宝、カシャッサについてご紹介します。
カシャッサの味を作りだすのは純国産サトウキビ
ブラジルでは“国民酒”として愛されるこの蒸留酒は、カクテルのベースとしてだけでなく、ウイスキーのようにカシャッサの味そのものが嗜まれることも増えてきています。
現地では“ピンガ”という呼び名でも親しまれているこのお酒は、厳格な法律でその製造方法が定められています。
ブラジル産のサトウキビで作られたサトウキビのジュースを100%使用して、ブラジル国内で製造されなければ「カシャッサ(cachaça)」という名前を使用することができないのです。
カシャッサとラムの違いは?
似たようなサトウキビ原料のスピリッツに「ラム」があります。
ラム酒には主に3つの製造方法があり、糖蜜を使い作られるもの、ブラジルと同様にサトウキビに搾り汁から作られるもの、サトウキビシロップを使い作られるものがあります。
サトウキビの搾り汁で作られたものはアグリコールラムと呼ばれ、カシャッサとほぼ同じ作り方と言えます。
カシャッサは、このサトウキビの搾り汁で作ることのみが許され、サトウキビ本来の味や香りを楽しめるお酒として、ブラジルではブラジル全土、富裕層から貧困層に至るまで国民的なお酒として楽しまれているのです。
カシャッサの分類
また、カシャッサは産業として大量生産される“カシャッサ・インドゥストリアル”と、小規模生産のクラフトカシャッサの“カシャッサ・アルテザナウ”に分けることができます。
前者は価格も安く抑えられていて、雑味が少ないことから、主にカイピリーニャをはじめとする”カクテルのベース”として使いやすいように造られています。
一方で”アルテザナウ”は、少量生産で作り手がこだわる香りや味などの個性を大事にしているものが多く、価格帯も高級なものからお手頃価格のものまで、さまざまです。
ブラジル屈指のカシャッサの生産地であるミナス・ジェライス州では、法律で細かく製造工程法が決められていて、「原料として砂糖や副原料などの添加物を一切使用してはならない」と厳格に定められています。
ブラジルでカシャッサがどれだけ大切にされているかがうかがえます。
カシャッサはサトウキビ原料のお酒で、ほのかな甘さが上品に香るものが多く、アロマを十分にたのしめるよう、ストレートやロックで飲むことをおすすめします。
また、ハイボールのように炭酸で割っても美味しくお飲みになれます。
カシャッサの度数はブラジルの法律で定められている
ブラジル国内には約1万5000の蒸留所と約4000のカシャッサのブランドがあります。カシャッサはそれらの蒸留所で、サトウキビの搾り汁を加水せず直接発酵させたものを蒸留します。
その後48%のアルコール度数になるまで発酵させて、アルコール度数が39%あたりになるまで、香り成分を残しながら調整していくのです。
ブラジルが定めるカシャーサの定義によると、カシャッサはブラジルで産出されたサトウキビを原料として使い、その絞り汁を醗酵させたアルコール度数が38~54 %の蒸留酒でなければならないとされています。
一見とても強そうなお酒に感じますが、香り豊かで、口当たりも良いため、ストレートで楽しむお酒としても人気があります。
ブラジルのバーに行くと、このカシャッサの瓶が壁いっぱいに並べられているところも多く、ブラジル人のカシャッサへの愛が感じられます。
カシャッサの飲み方は?
カシャッサはもともとストレートで楽しまれるお酒でした。気温が高い地域で、汗をかきながらグイッとショットにして飲み干すのも良し、寒い地域でちびちびと、つまみをあてに飲むにも美味しいお酒です。
ブラジルのレモン(ライム)と共に味わう飲み方も一般的です。
カシャッサが製造される、それぞれの地方の気候や気温、地域の好み、製造の手順などによって、カシャッサの風味も異なり、個性あふれる味わいを飲み比べて楽しめるお酒でもあります。
蒸留酒の中で、ウォッカに次いで世界第2位の消費量という数字の裏には、実はブラジル人がその90%を消費しているという驚きのデータがあります。いかにカシャッサがブラジルで愛されているかが伝わってきます。
そんなカシャッサですが、ブラジルを代表する飲み方の一つである「カイピリーニャ」に使われるお酒でもあります。
このカイピリーニャは今では世界的に知られたカクテルですが、実はスペイン風邪が世界的に流行した際に”特効薬”としてサンパウロの田舎で作られたのが起源とされています。
当時のカイピリーニャには、ニンニクやショウガなども入っていたそうで、後に飲みやすく改良されて現在のレモン(ライム)と砂糖というスタイルが確立されました。
このカイピリーニャですが、現在ではブラジル全土でカシャッサを使った代表的なカクテルとして親しまれています。
カシャッサの“51”は世界的なブランドに
カイピリーニャをブラジル全土のみならず世界的に広めることに一役買ったカシャッサのブランドがあります。
“51”と瓶に描かれたカシャッサで、ブラジルでは数字のポルトガル語読み「スィンクエンタイウン」と呼ばれます。このカシャッサは1951年にサンパウロの田舎でピッコロ兄弟が作り出しました。
そして1959年にボトリング大手のミュラーに買収されたのをきっかけに大々的に売れり出されることになります。
1960年代後半には、現在の形に近い965mlの透明の瓶に入れて発売され、「透明の1リットル」という愛称で親しまれるようになり、サンパウロ以外の州でも販売されるようになっていきます。
同社は従業員の勤務管理を徹底することで生産性も向上し、売り上げは記録を更新し続けました。1990年代には海外への輸出に本格的に乗り出し、日本にも初めてのコンテナが港に到着することになります。
その後“51”の派生形の商品が沢山生まれることになります。
マーケティング戦略に力を注ぐ“51”は‟uma boa ideia”(グッドアイディア)というキャッチコピーを作り出し、メディアを使いブラジルの全国民にこの一言を浸透させたのでした。
ブラジル人は会話の中で「いいね!」という時に‟Boa ideia!”と言うことから、“51”は瞬く間にブラジル全土で市民権を獲得し、その地位を不動のものとしました。
ブラジルの発祥の商品の中でも驚くべきマーケティング力を持つ“51”は世界中で「カシャッサと言えば51」と言わせることに成功し、現在でもバーなどでカイピリーニャのベースとして使用されています。
カシャッサはセレッタによって「質」の時代へ
サトウキビ栽培が盛んにおこなわれるブラジルでは、サトウキビを原料とするカシャッサはブラジル全土で製造されています。その中でももっともカシャッサを大切にしている州と言えるのがミナス・ジェライス州です。
サンパウロ州とリオ・デ・ジャネイロ州の北側に位置し、17世紀に金が発見され、一大ゴールドラッシュに沸いたブラジルでもメジャーな州のひとつです。
ミナス・ジェライス州では、カシャッサの製造方法を細かく法律で定め、厳しく管理することで、昔ながらの味を守り続けています。
良質のクラフトカシャッサがひしめき合う群雄割拠の一大生産地がこのミナス・ジェライス州なのです。
首都のベロ・オリゾンテはブラジルで4番目に大きい都市ですが、人口に対するバー(飲み屋)の割り合いが最も高い都市とされ、街には‟boteco(ボテッコ)”と呼ばれるバーが至る所にあります。
そんなカシャッサ好きのベロ・オリゾンチっ子たちから最も支持を集めるカシャッサがミナス・ジェライス州生まれのセレッタ(SELETA)です。
セレッタはブラジルで最も成功しているクラフトカシャッサ、“カシャッサ・アルテザナウ”のメーカーで、ブラジル随一の生産量を誇り、40年以上にわたって、同じラベル、同じ品質、同じ味を守り続けています。
使用するサトウキビは、ミナス・ジェライス州の“サトウキビ畑の首都”と呼ばれるサリーナスのものを厳選して使い続けています。
「一口飲むごとに、一つの物語が語られる」と称されるように、その芳醇な香りの中には、セレッタが守り続けてきた伝統が感じられる奥深さがあります。
ブラジルのサトウキビ栽培は、ブラジルの奴隷制の歴史と共に歩んできた経緯があり、カシャッサの歴史はしばしばブラジルの歴史と共に語られます。
セレッタの瓶にはそんな歴史も感じて欲しいという生産者の思いも込められています。
サトウキビから造られるカシャッサは、生産量が莫大なため、国内での流通量が非常に多く、ブラジルでは「安酒」として扱われてきました。
そんなカシャッサという嗜好品の購買動機を「価格」から「質」へ転換させることに成功したのが、このセレッタだとも言われています。
手作りの良さを十分に引き出しながら、生産量を増やすことに成功した、奇跡のカシャッサがこのセレッタなのです。
カシャッサのカクテルが放つ豊富なバリエーション
カシャッサはストレートで香りを楽みながら飲むというファンも多くいますが、カクテルにして飲みやすくして楽しむのも一般的です。
今ではバーに行くとカイピリーニャが用意されていることも珍しくなくなりましたが、ブラジルにはカシャッサを使ったカクテルの種類が実に豊富にあります。
ブラジルでカシャッサを使ったカクテルが爆発的に流行したのは、1960年代に家庭用ミキサーが登場したのがきっかけでした。
それまではカシャッサはシンプルな飲み方しかされていませんでしたが、1970年代にサンパウロで開催されたバーテンダーの大会で、“奇才”デリバン・デ・ソウザによって披露された「ミキサーを使ったカクテル」の数々が、それまで作られていたブラジルのカクテルに“革命”を起こしたのです。
彼によって、ピーナッツ、ココナッツミルク、パッションフルーツ、イチゴなど、今ではブラジルのビーチサイドで楽しめるメジャーなカクテルがこの時生み出されたのです。
これをきっかけにブラジル人は、砂糖や練乳をふんだんに使ったカクテルを好むようになったとも言われています。
日本でも手軽に作れるカクテルに“Batida de Coco”(バチーダ・ヂ・ココ)があります。これは、ココナッツミルク、練乳、カシャッサをミキサーで混ぜたものです。
バチーダとは「ミキサーで作った」という意味があり、ミキサーを使って作られたカクテルは総称して「バチーダ」と呼ばれます。
ブラジルのバーに行くとカウンターにミキサーを置いている店も多く、バチーダが国民にどれほど愛されているかをうかがうことができます。
カシャッサのおすすめはこちら
日本でもメジャーになりつつあるスピリッツ「カシャッサ」ですが、なかなか手に入れられないのがもどかしいところです。そんなカシャッサですが、ネット通販で入手可能な2種類をこちらでご紹介します。
セレッタ
ブラジル国内で最も飲まれているクラフト・カシャッサ。ウンブラーナという木の樽で2年間熟成させ、伝統的手法を用いながら製造されています。ライトな味わいで若者にも人気がある逸品です。炭酸水で割ってレモンを入れた“セレッタ・ハイボール”もおすすめ。
蒸留所:ミナスジェライス州サリナス市
内容量:670ml
アルコール分:42%
ボアジーニャ
バルサモという木の樽で4年間熟成させ、伝統的手法を用いながら製造されています。さらに、自社農場で栽培されたサトウキビを原料にして、伝統的な手作業で造られています。生産量の少ない希少性の高いボアジーニャは、カシャッサ本来の芳醇さを発揮。ほのかに桜餅のような香りが感じられる、風味豊かな「ボアジーニャ」は、ぜひストレートでお試しください。
蒸留所:ミナスジェライス州サリナス市
内容量:670ml
アルコール分:42%
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